しみず動物病院 Information

千葉県鴨川市 しみず動物病院のおしらせブログです。

どうぶつと暮らそう①

 ペットと感染症というテーマで房日新聞にコラムを掲載させて頂きましたので、当院ブログでもご紹介させて頂きたいと思います。少しボリュームがありますが目を通して頂ければ幸いです。

ペットと感染症

 ある日、動物病院に一本の電話がかかってきました。「犬がくしゃみをしているのですが犬から人に病気がうつったりしますか?」といった内容の電話でした。小さいお子さんや免疫力の弱い方、お年寄りのいる家庭、ペットのいる家庭の事情は様々で人と動物との間で病気が感染しないかといった不安は尽きません。人と動物との間で行き来する病気のことを人獣共通感染症(ズーノーシス)と呼ばれ、これらは主にウイルスや細菌などで起こります。そして先日、香港で新型コロナウイルス感染者の飼犬から弱い陽性反応が出たという報道があり、この報道を耳にした方は、本当にこの病気がペットにうつらないのか心配されていることと思います。

 さて、この新型コロナウイルスですが、元々、人の風邪を起こすウイルスの10〜15%はコロナウイルスだと言われ、今回なぜ感染拡大が心配されているかと言うと、特に呼吸器症状が強く出る様にウイルスが変異してしまったからなのです。コロナウイルスは、変異によって色々な種類に分かれている事が解っており、主に飛沫(くしゃみ、咳、唾液)や接触により感染します。コロナウイルスの感染力はそれなりに強いのですが、構造的に案外もろく、本体を包むエンベロープというカプセルを消毒用アルコールや石鹸で破壊することで簡単に死滅させることができます。つまり、うがいや石鹸を使った手洗いが推奨されるのは、これらの方法でしっかりとした感染予防が可能だからです。また、感染してしまった場合はマスクなどで飛沫を飛散させないことで周囲へのウイルスの拡散を防ぐことも大切です。一方で動物にもコロナウイルスによる病気があります。例えば、犬では下痢などの消化器症状を猫では致死的な伝染性腹膜炎(FIP)を起こしますが、このウイルスは人に感染するものとは種類が異なるため、犬や猫以外に感染はしません。ところが先日、新型コロナウイルスの人から犬への感染を示唆するコメントが香港の政府機関(AFCD)から発表されました。幸い犬は無症状で人に対しての感染力はないと報告されています。また、世界小動物獣医師会(WSAVA)では、この報道に対し、1例の限られた報告だけでしかないことや、今回の犬の感染の報告だけでは犬を含むペットが人への感染源になり得る確固たる根拠にはならないと報じています。いずれにしても、今後の新型コロナウイルスにおける人と動物との関係についての動向を注視する必要がありそうです。

 冒頭の「犬から人に病気がうつったりしますか?」に話を戻しますが、大腸菌やパスツレラ、一部のカビなどはペットから人へ感染することが知られています。逆に、今回の新型コロナウイルスのように人から犬への感染が疑われている病気もあります。これらの感染症から我々自身やペットを守るためにも、動物に触る前や後での石鹸での手洗いの徹底や、キスをする、顔を舐めさせる、食べ物を共有するなどの行為は控えるようにしましょう。また、犬の消化器症状を起こすコロナウイルスに対するワクチンがありますが、種類が異なる新型コロナウイルスはこのワクチンでは予防できません。そして、飼い主さん自身が新型コロナウイルスに感染してしまった場合ですが、ペットとの接触はできるだけ控えるようにして下さい。感染者以外で家庭内に世話をすることができる人がいれば、できるだけ同一の感染者以外の人が世話をするようにし、感染者であるあなたはペットをなでたり抱いたりすることも避けるようにしましょう。マスクを着けてペットに飛沫が付着しないように用心することも大切です。幸いこれまでに新型コロナウイルス感染者のペットがこのウイルスによって病気になったとの報告はありませんが、もしこのような状況下でペットの状態が悪くなった場合は、いきなり動物病院へ連れて行く等の行動は控え、まずは動物病院もしくは保健所に連絡を取るようにして下さい。また、動物病院では隔離室を準備するなどの受け入れ体制が整っていない可能性があるため、行く前には必ず連絡を取ってから移動するようにしましょう。

 人は不安な気持ちになった時、色々な噂やデマなどを信じやすくなります。ネット上に様々な情報が飛び交う中で、その情報が本当に正しいものなのか冷静な判断と見極めが大切です。限られた報告でしかありませんが、新型コロナウイルス感染者からペットへの感染の可能性は否定できません。しかし、ペットから人への感染を示す明確な根拠は今のところありません。まずは冷静に、決して動物に対する過剰な不安や恐れから飼育放棄をするなどの軽率な行動を取ることなく、これまで通りふつうに接してもらえることをお願いします。また、今後もペットに関する様々な情報に惑わされることなく、不安なことや心配なことがあれば、まずは動物病院に連絡をして下さい。(2020年3月18日房日新聞に掲載)

 

これからも、ペットに関する時事関連のニュースや動物のあれこれを不定期ですが投稿して行ければと思っています。記事に関してご不明な点などありましたらご連絡下さい。

しみず動物病院 院長 清水篤